Kobe University

巨大カルデラ噴火のメカニズムとリスクを発表

2014年10月22日

本プレスリリースのテキストと図版データは、次のリンクにてダウンロード可能です。

研究成果の要旨

神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻の巽好幸教授と鈴木桂子准教授は、日本列島で過去12万年間に起こった火山噴火の規模と発生頻度を統計的に解析し、以下の知見を得ました。この知見については10月22日、文部科学記者会などで発表しています。

  1. 通常の山体噴火とカルデラの形成を伴うような巨大噴火は、異なるメカニズムでマグマの集積・噴火が起きることが判りました。巨大カルデラ噴火を引き起こすマグマ溜りは、自らの大きさに起因する浮力によって亀裂が生じ、噴火にいたると考えられます。
  2. 巨大カルデラ噴火を起こす火山は、地殻の変形速度が小さい地域に位置することが判りました。このような場所では、粘り気の高いマグマが効果的に、次々と地殻内を上昇して、巨大なマグマ溜りを形成すると考えられます。
  3. 日本列島で今後100年間に巨大カルデラ噴火が起こる確率は約1%です。この確率は、兵庫県南部地震 (阪神・淡路大震災) 発生前日における30年発生確率と同程度です。すなわち、いつこのような巨大噴火が起こっても不思議ではないと認識すべきです。最悪の場合、巨大カルデラ噴火によって1億2000万人の生活不能者 (注) が予想されます。

この研究成果は、日本学士院紀要 (Proceedings of Japan Academy, Series B, Physical and Biological Sciences) に、2014年11月11日に掲載されました。

(注) 「1億2000万人の生活不能者」部分について [2014年11月6日追記]

当初の発表資料では、実質的に1億2000万人の死亡者が予想されるため、「死亡者」としていましたが、会見場で日本学士院紀要掲載論文との整合性を指摘されたため、その場で論文通りの「生活不能者」との表現に訂正しています。

研究の背景

日本は、地球上の活火山 (過去1万年に噴火した火山) の約7%が集中する火山大国です。これらの火山の活動は、これまで多くの災害を引き起こしてきました。先日は御嶽火山が噴火しましたし、また近年では、富士山噴火の可能性が注目されています。

火山噴火の規模を表すには、噴火マグニチュード (M) という尺度が使われます。これは、噴出物の総重量 (kg) の常用対数から7を減じたものです。例えば、富士山宝永噴火や、桜島を大隅半島と陸続きにした桜島大正噴火などの大規模噴火は、それぞれM5.3、M5.6と表されます。桜島大正噴火は、我が国の歴史上最大規模の噴火の1つです。一方日本列島では、頻度こそ低い (全体の0.01%以下) ものの、全ての火山噴出物の60%以上を噴き出したM7以上の巨大噴火も起こってきました。このような噴火は、一度起これば甚大な被害が予想される「低頻度大規模災害」の典型的なものです。例えば、今から約7300年前に鹿児島県南部の薩摩硫黄島火山で起こった鬼界アカホヤ噴火 (M8.1) では、少なくとも南九州の縄文文化は壊滅し、その回復には1000年近くかかったと言われています。

従って、このような巨大噴火の発生メカニズムを理解して、そのリスクを正しく認識することは、火山大国に暮らす私たち日本人にとって大変重要なことです。

研究の内容

【図1】噴火の規模と頻度の関係

世界中の火山噴火の規模 (マグニチュード) と発生頻度の関係をみると、M8までは見事な直線関係が認められますがM9規模の噴火は明らかに頻度が下がっています (図1A)。これは、噴火を引き起こす火山システムの大きさに限界があること、例えばマグマ溜りが形成される地殻の厚さに上限があることに原因があります。一方日本列島の火山活動の規模と頻度の関係はやや複雑で、M5とM6の間で直線関係が崩れています (図1A)。日本列島では、特有のマグマ発生と噴火のメカニズムが働いている可能性があります。この点を検討するために、私たちはもう少し詳しく噴火の規模と頻度の関係を調べてみました (図1B)。

火山噴火のようにその規模に上限があるような現象を統計的に取り扱うには、「極値理論」特にワイブル関数を用いた解析が有効であることが知られています。日本列島における過去12万年、合計447回のM4以上の噴火を解析すると、これらの噴火全てを単一のワイブル関数 (図1Bの4 ≤ M ≤ 9) でうまく表すことはできません。一方、M5.7以下とM7以上の累積頻度は、別々のワイブル関数でよく再現できます。また、これらの中間の規模の噴火は、それより大規模な噴火と小規模な噴火の重ね合わせとして理解することができます。

ここで重要な点は、2つのワイブル関数が適用できるそれぞれの噴火は、噴火の様式が異なることです。つまり、M5.7以下の噴火は全て山頂もしくは山腹からの噴火 (山体噴火) であるのに対して、M7以上の噴火は全て陥没カルデラの形成を伴うものです (図1B)。

【図2】日本列島の巨大カルデラ火山の分布と
巨大カルデラ火山噴火の最悪のシナリオ

以上のことから、通常の山体噴火とカルデラ形成を伴う巨大カルデラ噴火は、異なるメカニズムで起こることが予想されます。山体噴火は、マグマ溜に新たなマグマが供給されることによる圧力増加や温度上昇による発泡が原因と考えられています。一方巨大カルデラ噴火の場合は、巨大なマグマ溜内のマグマ自身の浮力でマグマ溜の上部に亀裂が生じると思われます。さらに、巨大カルデラ噴火を起こしてきた火山は、地殻歪 (変形) 速度の遅い地域にあることが解りました (図2)。

マントルで発生して地殻の底まで上昇した高温の玄武岩質マグマは、列島の地殻を融かしています。その際に歪速度が小さいと、地殻が融けてできた流紋岩質マグマが効果的に次々と分離・上昇して、巨大なマグマ溜を形成すると考えられます。

過去の巨大カルデラ噴火の発生頻度を統計学的に解析したことで、この結果を用いて将来の噴火発生確率を求めることが可能になります (表1)。その結果、日本列島で今後100年間に巨大カルデラ噴火が起こる確率は約1%であることが判りました。この確率は、兵庫県南部地震 (阪神・淡路大震災) 発生前日における30年発生確率と同程度です。すなわち、いつこのような巨大噴火が起こっても不思議ではない訳です。

【表1】日本列島における巨大カルデラ噴火の発生

最も地質学的な情報が揃っている過去の巨大カルデラ噴火 (今から約2万8000年前に九州南部で起こった姶良あいらカルデラ噴火) を参考にして、巨大カルデラ噴火の影響を検討しました (図2)。現時点では、日本列島のどの場所で巨大カルデラ噴火が起こるかを特定することはできませんが、過去12万年で7度もこのクラスの噴火を繰り返し、地殻歪速度も小さい中部〜南部九州を考えることは、最悪の事態を想定するという観点からも適切だと考えられます。日本列島では火山灰は偏西風によって運ばれるからです。数百℃もの高温の火砕流は、その発生から2時間以内に700万人もの人口域を埋め尽くします。そして火山灰は東へと流れ、降灰により北海道東部を除く日本全域で生活不能となります。ここで重要なことは、交通・ライフラインが完全麻痺に陥った1億2000万人の本州住民への救援活動は、ほぼ絶望的と考えざるをえないことです。

今後の展開

【図3】災害の危険度 (破線と数字)

巨大地震は日本に甚大な被害を与えます。例えば、今後30年の発生確率が70%といわれる南海トラフ巨大地震の死亡者数は30万人を超えるとも言われています。一方で巨大カルデラ噴火は、日本という国を消滅させると言っても過言ではありません。死亡者数に発生確率を乗じた災害の「危険度」を比較すると、巨大カルデラ噴火が如何に重大な脅威であるかを理解いただけるでしょう (図3)。

今後私たちがすべきことの1つは、厚さが約30kmもある地殻の真ん中あたりに形成される厚さ数km以下で薄く広がるマグマ溜りの状態を正確に捉える技術を確かなものにして、巨大カルデラ噴火の危険地帯である九州島の地下のモニタリングを行うことです。また、過去の巨大カルデラ噴火の規模と発生年代、そして噴火の経緯に関するデータを精密化することも忘れてはならないでしょう。

(理学研究科)