Kobe University

[人間発達環境学研究科] 水を調べるだけで在来および外来オオサンショウオの生息エリアがわかる

2015年02月19日

神戸大学大学院人間発達環境学研究科の源利文特命助教、福本想氏 (研究当時発達科学部4年生、現京都大学大学院生)、丑丸敦史教授のグループは、河川水から採取した水に溶け込むDNA(環境DNA)の情報から、特別天然記念物のオオサンショウウオおよび近縁外来種のチュウゴクオオサンショウウオの生息情報を得ることに成功しました。

本研究成果は、平成27年2月13日9時 (グリニッジ標準時、日本時間18時) に英科学誌「Journal of Applied Ecology」に、オンライン掲載されました。ポイントは以下のとおりです。

ポイント

  1. 河川の水を4リットル汲んで解析するだけでオオサンショウオの分布がわかる
  2. 環境DNA分析手法を用いた野外調査としては、広域を継続的に調べた国内初のケース
  3. 近縁な外来種であるチュウゴクオオサンショウウオのDNAも区別して検出することに成功
  4. 今後、国内の他地域における調査を計画
特別天然記念物のオオサンショウウオ
外来種のチュウゴクオオサンショウウオ

源特命助教らの研究グループはこれまでに、両生類や魚類のうろこや排泄物などから環境水(河川水や湖沼水)に溶け出ているDNAに着目し、それらのDNAを精度良く検出できる「リアルタイムPCR(合成酵素連鎖反応)法」注1を用いて、水中生物の生息エリアを予測する手法を、主にブルーギルなどの比較的生息数の多い魚類を対象にして開発してきました。本研究ではその方法を応用して、河川水の採取によって、特別天然記念物のオオサンショウウオおよび外来種であるチュウゴクオオサンショウウオの生息エリアを推定する手法の開発に成功しました。京都府下の桂川水系全域にわたる37箇所で、2012年から2013年にかけての1年間に4回の採水調査を行い、採取した水4リットルから、オオサンショウウオおよびチュウゴクオオサンショウウオのDNAの検出を試み、これまでの捕獲調査の結果と非常によく一致する結果を得ました。このような環境DNA手法が広域かつ継続的な調査に用いられた結果が報告されたのは、国内では初めてです。この手法は、調査が困難である夜行性の希少種に幅広く応用可能であると考えられます。

オオサンショウウオは特別天然記念物に指定されており、近年その生息数の減少が懸念されています。また、既に新聞等で報道されているとおり (例:2010年10月25日朝日新聞「中国種と交雑、絶滅危機 賀茂川のオオサンショウウオ」)、京都府の桂川水系や鴨川水系には大陸由来のチュウゴクオオサンショウウオが侵入し、在来のオオサンショウウオと交雑することが知られています。特に鴨川では、雑種が多く見つかり、純粋な在来オオサンショウウオがほとんど見られない危機的な状態であることが京都市などによって報告されています(平成23年度特別天然記念物オオサンショウウオ緊急調査 (京都市))。したがって外来種や交雑種の侵入範囲を一刻も早く把握し対策を打たなければなりません。しかし、夜行性の希少種であるオオサンショウウオの調査には多くの労力や時間を要するうえ、在来種、外来種、交雑種を形態から区別することはできないため遺伝子検査が必要となり迅速な調査を難しくしています。本研究で開発した手法では、河川水中の生物種に特異的な遺伝子配列を直接検知するため、個体を捕獲することなくそれぞれの種の生息エリアを推定することができ、広域にわたる迅速な調査が可能となりました。

京都市などの行った個体捕獲調査では、鴨川水系(鴨川、高野川、賀茂川)および上桂川上流域における外来種および交雑種の生息が知られていましたが、今回の調査からも、鴨川水系および上桂川上流部から外来種のDNAが検出され、本手法の有効性が確認されました。また、上桂川の下流域からも外来種のDNAが検出され、上桂川全域にわたってすでに外来種が進出しているおそれがあることが示唆されました。一方、清滝川や桂川の本流からは外来種のDNAは検出されませんでしたが、それらのエリアへの拡大も懸念されており、今後も継続した調査が必要であると考えられます。昨年には、三重県名張市の滝川にも外来種が侵入していることが新聞報道されました (2014年9月5日毎日新聞「オオサンショウウオ:困った外来種 捕獲後、殺処分もできず 一大生息地、三重・名張の滝川」)。そのため、国内の他地域への外来種の拡大についても早急に調査する必要があります。そのような広域調査に対して、本手法は非常に有効であると考えられます。

本研究は、開発した手法によって捕獲・観察等による調査が困難な夜行性の希少種および外来種の調査を迅速に行うことが可能であることを示しており、今後様々な水生動物種に適用可能であると考えられます。今後は手法の適用できる生物種の拡大とともに、非専門家でも簡便に利用可能な手法としての確立も目指していきたいと考えています。

用語解説

注1 リアルタイムPCR法:
DNAの一部分だけを選択的に増幅させて経時的に測定することで、特定のDNAを精度良く検出する手法。

参照リンク

(人間発達環境学研究科、広報室)