神戸大学と白鶴酒造株式会社は、2021年4月から、鶏用飼料としての酒粕利用法について共同研究を開始し、2022年8月には、「CO2排出量を削減する国産飼料原料開発事業」としてKOBEゼロカーボン支援補助金制度 (※1) の補助事業として採択され、酒粕を飼料化することで飼料を輸入する際に生じるCO2の削減にも取り組んできました。

この度、研究の一環で、鶏に与える飼料を輸入飼料から国産の酒粕に置き換えることで、鶏肉の味わいが向上することを明らかにしました。今後は国産鶏肉の付加価値向上によるブランド化について、具体的な検討を進めていきます。

玄米と酒粕を配合した飼料 (玄米酒粕飼料) の給餌による鶏肉の肉質向上効果

①風味全体の強さ、鶏肉らしい風味、風味の総合評価が向上 (参照:図1)
②酒粕に由来するパルミチン酸とその代謝産物であるパルミトレイン酸の割合が上昇 (参照:図2)
[脂肪酸が低分子化・不飽和化していることとなり、鶏肉の食味向上に寄与している可能性がある。]

図1 玄米酒粕飼料を給餌した鶏もも肉の官能評価結果
図2 玄米酒粕飼料がもも肉の脂肪酸組成に及ぼす影響

背景

神戸大学で玄米酒粕飼料を与えている様子

国産鶏の飼料の主な原料は輸入に依存している。しかし、輸入飼料 (※2) は海外情勢や原油価格、円安など多くの価格変動リスクがあることに加え、輸送時のCO2排出による地球温暖化促進が懸念される。したがって、食料の安定供給だけではなく、環境保全の面からも、飼料の国産化は重要な課題となっている。

一方、日本酒の副産物である酒粕は、粕汁や漬物など食用として活用されてきたが、形状などが食用に適さないものも発生することから、新たな活用法が模索されてきた。

研究概要

(左) トウモロコシ大豆粕飼料とその飼料を与えたもも肉
(右) 玄米酒粕飼料とその飼料を与えたモモ肉※飼料の色素の影響で、色調が変化。

そのままでは水分量が多く鶏の飼料に配合することが困難な酒粕を、種々の乾燥方法で乾燥・破砕し、玄米と共に肉用鶏に3週間給餌し、成長と鶏肉の食味に及ぼす影響を調べた。その結果、温風乾燥・破砕した酒粕を用いれば、トウモロコシ大豆粕飼料に比べ、成長に悪影響を及ぼさず、且つ鶏肉の食味が向上できることを明らかにした (2023年3月25日 第64回日本食肉科学会大会 発表)。

期待される効果

  • 食資源の有効活用
  • フードマイレージ (※3) の削減に基づくCO2削減
  • 飼料自給率の向上に基づく食料自給率 (※4) の向上
  • 国産米活用による水田の維持

玄米酒粕飼料の実用化に向けた給餌方法の改良

  • 酒粕の有効配合割合 肉用鶏に与える飼料の酒粕配合割合を2/3に削減しても、鶏肉の香りが向上することを明らかにした (2023年9月21日 日本家禽学会2023年度秋季大会 発表)。
  • 有効給餌期間 肉用鶏に与える飼料の給餌期間を1週間に短縮しても、鶏肉の風味が向上することを明らかにした (2023年度11月11日 第73回関西畜産学会大会 発表)。
  • 鶏卵の食味に及ぼす影響 産卵鶏に3週間飼料を与えると、卵黄の香りが向上することを明らかにした (2023年9月19日 日本畜産学会第131回大会 発表)。

▶引き続き試験を重ね、国産鶏肉の付加価値向上について最適な方法を模索していく。

今後の取り組み

  • 地産地消のフードチェーンの構築
  • 地域ブランド畜産物の開発

白鶴のCSR活動

 


 

※1 KOBEゼロカーボン支援補助金制度

神戸市が、2050年二酸化炭素排出実質ゼロの実現に向け、神戸市内での様々な取り組みを通じてゼロカーボンにチャレンジする市民、団体、法人などを積極的に応援する補助金制度。

※2 輸入飼料

国産鶏の飼料の主な原料はトウモロコシと大豆粕で、いずれも輸入に依存している。農林水産省の「令和4年度食料自給率・食料自給力指標について」によると、令和4年度 の鶏肉および鶏卵の「飼料が国産か輸入かにかかわらず (飼料自給率を反映しない) 国内生産した割合[食料国産率]」はそれぞれ64%および97%だが、「国産飼料のみで (飼料自給率を反映した) 国内生産した割合[食料自給率]」は、それぞれ9%および13%に低下する。

※3 フードマイレージ

食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標で、数値が高いほど輸送にエネルギーを費やし、CO2排出量が多いことを意味する。フードマイレージの少ない食品を選ぶことは、近隣で生産された食料を消費することになり、環境負荷の低減につながる。

※4 食料自給率

令和4年度の我が国の食料自給率は38% (農林水産省「令和4年度食料自給率・食料自給力指標について」より) だが、家畜に給与する輸入飼料を全て国産飼料で賄うことができれば、この値を46%まで高めることができる。

研究者

SDGs

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