神戸大学自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センターは、免疫や発生などの根幹的な生命現象を支える細胞運動が「膜張力」という物理的な要因により制御されることを、世界で初めて分子レベルで解明しました。感染対策や悪性腫瘍に対する新たな治療法の開発などへの応用が期待されます。

この研究成果を示した論文は、5月5日に英科学誌「Nature Cell Biology」にオンライン掲載されました。

細胞全体に分布していたFBP17−アクチン複合体 (写真中の白い点) が、張力の上昇を受け時間の経過とともに運動先端に集まり、細胞の運動方向を決定する。


この研究成果は、伊藤俊樹教授、辻田和也助教らの研究グループによるもの。がんの培養細胞を用いた実験を行い、細胞の運動には細胞膜にかかる「張力」が関係していることを見出しました。さらに、同研究グループにより「細胞膜を曲げる」という特徴的な性質が既に明らかになっていたタンパク質「FBP17」が張力を感知し、細胞の運動方向に影響を与えるセンサーの役割を果たす分子であることを世界で初めて解明しました。

私たちの体を構成する細胞は、生体の恒常性を維持するため適切に制御されています。例えば、細菌やウイルスが体内に侵入した場合、マクロファージや好中球といった免疫細胞が正確にこれを追跡・除去します。また、1個の受精卵が増殖、分化をしながら成体へと発生する過程では、適切な場所に配置されるよう細胞は高度に制御された運動を行います。ところが、細胞運動を制御する機構が破綻すると、がん細胞の転移が起こってしまいます。このように、細胞運動のメカニズムを理解することは悪性がんの克服を目指すうえで重要な課題でもあります。

伊藤教授は、「これまであまり注目されていない視点から研究を行い、がん治療へのアプローチを増やしたい」と話しています。

論文情報

タイトル

Feedback regulation between plasma membrane tension and membrane-bending proteins organizes cell polarity during leading edge formation

DOI

10.1038/ncb3162

著者

Kazuya Tsujita, Tadaomi Takenawa, Toshiki Itoh

掲載誌

Nature Cell Biology

研究者