神戸大学大学院理学研究科の北條賢特命助教と琉球大学、ハーバード大学の共同研究グループは、シジミチョウが共生するアリに蜜を与えることで、脳内物質ドーパミンの働きを抑制し、アリの行動を操作していることを発見しました。

この研究成果は、「共生」という現象を見直すきっかけとなりうるほか、ドーパミンがもたらす生理機能を解明する手がかりともなるもので、7月31日に「Current Biology」に掲載されました。

ムラサキシジミの幼虫に集まるアミメアリ

幼虫の伸縮突起 (円形の模様部分) に反応して攻撃的になる。


シジミチョウとアリは、異なる生物種がお互いの利益を交換しあう「相利共生」の代表例として知られています。シジミチョウの幼虫は、糖とアミノ酸の豊富な蜜を分泌してアリに栄養報酬として与え、蜜に集まったアリは幼虫を天敵から防衛します。しかし、アリは幼虫の蜜をもらえなくても他の餌を探すことができる一方、シジミチョウはアリがいなければ天敵に捕食されてしまうため、お互いの利益が釣り合っているとはいえません。

そこで、北條特命助教らの研究グループは、幼虫がアリを引き留めるための何らかのメカニズムを持つと推測。ムラサキシジミとアミメアリを用いて、I.アリのみの環境、II.幼虫とアリの共生環境 (蜜あり)、III.幼虫とアリの共生環境 (蜜なし) の3種類の環境下で詳細に調査しました。その結果、蜜を摂取したアリのみ歩行活動が減少し、ムラサキシジミの元に長くとどまり、しかもより攻撃的になることを発見しました。

さらにアリの脳内物質を測定したところ、蜜を摂取したアリは、動物のさまざまな行動を調整する働きをもつドーパミン量が減少していることがわかりました。また、ドーパミンの放出を抑制する薬物(レセルピン)をアリに投与した際にも蜜を摂取したアリと同様に歩行活動が減少することもわかりました。

この研究により、これまで「相利共生」と考えられてきたシジミチョウの幼虫とアリの関係が、栄養を与える幼虫側の利己的な行動操作によりアリが操作されることで維持されていることが明らかになったと言えます。北條賢特命助教は「アリにとって幼虫の蜜を摂取することがどれほど利益のあるものなのか、さらに研究を進めたい」と話しています。

掲載論文

タイトル
"Lycaenid Caterpillar Secretions Manipulate Attendant Ant Behavior"
DOI
10.1016/j.cub.2015.07.016
著者
Masaru K. Hojo, Naomi E. Pierce, Kazuki Tsuji
掲載誌
Current Biology

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研究者