東京理科大学は、神戸大学工学研究科、パシフィックコンサルタンツ (株)、三菱電機 (株)、三菱電機エンジニアリング (株)、(株) ニュージェック、(株) ビィーシステム、四葉システム開発 (株) と共同で、高感度CCTVカメラによる河川の撮影技術と、画像解析技術、水理解析技術を融合した河川水位・流量のリアルタイムモニタリングシステムを開発しました。現在、国土交通省による河川砂防技術研究開発 (研究代表者:東京理科大学 二瓶泰雄) において、福岡県・遠賀川における同システムの計測精度や環境依存性などの実証試験を進めています。同研究開発の成果をフィードバックすることで、安全・安定的に河川水位・流量のリアルタイムモニタリングが可能なシステムを2020年を目標に実用化する予定です。

従来までの河川水位・流量観測法と課題

図1 一般的な流量観測の模式図 (洪水時、浮子観測)

方法の概要

気候変動により頻発化・激甚化する水災害に対する防災・減災のためには、河川水位・流量※1を的確に把握することで、洪水氾濫危険度を評価し、適切な避難判断等の危機管理に繋げることが重要です。このため、河川管理者によって、河川水位は水位計を用いることで自動連続的に観測され、河川流量は出水時に短期集中的に観測されています (低水時は定期的に実施) 。河川流量 (=断面積×流速) を観測するためには、横断面内で変化する流速を複数地点で観測します。得られた流速観測値から流速分布を作成 (内外挿) し、各区分の断面積と流速の積を足し合わせたものが流量となります (この流量算出方法は区分求積法と呼ばれます)。

課題

水位観測の課題

近年多発する施設能力を上回る洪水時には、既設の接触式水位計 (水中に設置する計測方式の水位計) が損壊・流失し、欠測する事例が見られます。これに対して、橋桁等に取り付ける方式の非接触水位計 (電波式・超音波式) などが有力ですが、橋梁が冠水する規模の洪水には十分に対応できていません。

流量観測の課題

既往の流量観測では、人力での浮子測法が標準手法とされています。このため、観測所や周辺が冠水する洪水時には観測そのものが実施不可能となる事例が発生しています。また、高精度な流量観測データを得るためには、区分求積法では多くの地点における流速データが必要となりますが、それには多くの人員や時間が必要となります。そのため、特に、時間的な制約が大きい洪水時では、流速観測の地点数を十分確保できていないのが現状です。

一方、流速観測も非接触型流速測定方法 (画像解析、電波流速計など※2) が試みられています。これらの観測においては、横断面内の一部の流速データを内外挿し、横断面全体の流速データを高精度に推定する技術が有効となります。

以上より、水位・流量観測ともに、接触型の手法だけでは、超過洪水時には必ずしも確実に観測可能ではなく、非接触で高精度に把握する技術が求められています。

図2 従来の流量算出方法 (区分求積法)

本システムの特徴・優位性

図3 本システムの模式図

特徴

従来の流量観測方法の課題を克服するために、本研究チームでは、河川に多数設置されているCCTVカメラのネットワーク・インフラに着目し、これまで個別に開発が進められてきた高感度CCTVカメラ、水位画像解析、流速画像解析、水理解析、の各技術を統合することで、非接触で安全・安定的に河川水位・流量をリアルタイムモニタリング可能なシステムを構築しました。

本システムでは、自動制御された高感度CCTVカメラにより、水位解析用静止画・流速解析用動画を撮影し、画像相関法による水際線検出 (WDIC、Water-level Digital Image Correlation)、STIV (Space-Time Image Velocimetry) による水表面流速検出、DIEX法 (Dynamic Interpolation and Extrapolation method、力学的内外挿法) による流速内外挿・流量算出を自動連続・リアルタイムで行います。

優位性

(1) CCTVカメラ画像解析の採用や水理解析の導入により確実性を保持

一般に、CCTVカメラは堤防上に設置された支柱上や河川管理施設に設置されており、橋梁が冠水する規模の洪水でも流失することは極めて稀です。その撮影映像から、水位・流速を画像解析により算定することで、洪水でも確実な水位・流速計測が可能となります。流速画像解析には、市販のKU-STIVを用います。

さらに、DIEX法による流体の運動方程式に基づいた流速内外挿操作を導入することで、流速解析精度が低下する夜間や豪雨時といった過酷な環境下でも、安定的に流量値を得ることが可能です。

(2) 自動連続・リアルタイムでの流量観測が可能

従来の流量観測では、人力での作業が必須とされてきました。これに対して、本システムでは、完全な無人・自動連続・リアルタイムでの観測を可能としています。

(3) 低コスト・維持管理が容易

既存のCCTVカメラインフラを活用することが可能であるため、システム導入にかかるコストが低廉で、かつ、水中設置型の機器と比較して維持管理が容易となります。

(4) 現地環境に合わせたカスタマイズが可能

本システムを構成している4つのサブシステムは、相互に疎結合となるように設計されており、現地環境に合わせたカスタマイズが可能となっています。例えば、高感度カメラでも撮影が困難な環境では遠赤外線カメラを用いることや、水位観測に一般の水位計を用いることなどが可能です。

期待される効果と今後の展望

最新の撮影技術や解析技術を融合した本システムの導入により、従来、観測実施が困難であった施設能力を上回る洪水時においても、安全・安定的に河川水位・流量のモニタリングが可能になります。また、既存のCCTVカメラのネットワーク・インフラを活用することで、低コストで導入可能となっているだけでなく、河川水位・流量観測を大幅に効率化することで、現代社会の大きな課題であるインフラ管理の効率化に大きく寄与します。

今後は、現地実証試験を継続し、本システムの適用範囲や環境依存性を明らかにするとともに、システムの高度化を図ります。さらに、2020年の実用化を目標として、システムとしての信頼性向上・冗長化を進めて参ります。

補足事項

本研究開発の一部は、以下に示す国土交通省河川砂防技術研究開発公募河川技術分野 (研究代表者 二瓶泰雄) により進められています。

公募名
河川砂防技術研究開発公募 河川技術分野
公募課題
洪水時の水理現象を把握するための水理解析及び観測の高度化に関する技術研究開発「(B)観測」
研究テーマ
画像解析法と水理解析の連携による安全・安定的な河川水位・流量観測システムの確立と実用化
研究代表者
二瓶 泰雄 (東京理科大学理工学部土木工学科・教授)

現地実証試験は、九州地方整備局・遠賀川河川事務所の協力を得て、遠賀川水系遠賀川の勘六橋地点 (河口から19.9km) において実施しています。本システムの有効性や適用範囲を明らかにするために、低水・出水時を対象に、検証用の水位・流速・流量観測を行っています。

図4 現地実証試験サイト
図5 機器設置状況と撮影画像例

関連リンク

研究者