神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター/臨床ウイルス学分野 定岡知彦助教の研究グループは、水痘帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus; VZV) が潜伏感染しているヒト三叉神経節神経細胞において、複数の遺伝子断片(エクソン)から構成される新規のウイルス由来転写産物を発見し、VLT (水痘帯状疱疹ウイルス潜伏感染関連転写産物;VZV Latency-associated Transcript) と名付けました。

本研究成果により、新たなウイルス遺伝子を発見するとともに、VZVがヒト神経細胞で潜伏感染を維持する仕組みの一端が解明されました。このVLTの発見は、VZVの潜伏感染、再活性化の分子メカニズムを明らかにするための鍵であり、さらなる研究を進めることで、このほぼすべてのヒトに感染しているウイルスを撲滅する道が拓かれることが期待されます。

この研究成果は、科学誌「Nature Communications」に平成30年3月19日の週に掲載されました。

水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus; VZV) とは?

  • ほぼすべてのヒトに感染しているヘルペスウイルス。
  • 水ぼうそう(varicella)を発症した後、全身の神経節神経細胞に生涯にわたって潜伏感染する。
  • 様々な刺激によって再活性化することで、帯状疱疹(zoster)を引き起こし、さらに長期の神経痛、失明、脳卒中などを伴うこともある。

研究の背景

VZV感染に対しては、日本で開発された弱毒生ワクチンがその高い安全性と有効性により、世界中で使用されています。しかし、この弱毒生ワクチンは、水ぼうそうに対しては90%以上の高い予防効果がありますが、帯状疱疹に対しては50%程度の予防効果しか認められません。また、弱毒化されてはいますが生ワクチンであるため、通常のVZVと同様に神経節神経細胞に潜伏感染し、頻度は非常に低いものの時に再活性化して病気を引き起こすことも報告されています。

VZV感染による病気を人類から完全に排除する為に必要な次の戦略の一つには、現行の生ワクチンと同様に、接種により充分な免疫を誘導するとともに、潜伏感染できない、あるいは潜伏感染より再活性化することのできない、次世代弱毒生ワクチンを開発するとこが挙げられます。しかし、VZVがヒト神経節神経細胞に潜伏感染し、再活性化により帯状疱疹を引き起こすことが科学的に証明されてからすでに35年以上が経過していますが、VZVの潜伏感染および再活性化の分子レベルでのメカニズムはほぼ不明でした。

研究内容

神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター/臨床ウイルス学分野の定岡知彦助教が参加する国際共同研究グループ(イギリスUniversity College London、オランダErasmus Medical Centre、アメリカ合衆国University of Colorado)は、複数のヒト三叉神経節において発現する新規のウイルス遺伝子を発見し、VLT (水痘帯状疱疹ウイルス潜伏感染関連転写産物;VZV Latency-associated Transcript) と名付けました。このVLTが、培養細胞を使用した実験系において、VZV再活性化時の感染拡大の非常に早い時期に重要な働きをする、ORF61という遺伝子の発現を特異的に抑制することを明らかとし、VLTがヒト体内での潜伏感染維持に働いている可能性を示しました。

本研究成果により、VZV潜伏感染、再活性化の詳細な分子メカニズムを明らかにするための鍵となる因子が発見されました。このVLTを中心としたVZV潜伏感染、再活性化の仕組みを解明することで、人類からのVZV撲滅への道が拓かれることが期待されます。

謝辞

本研究成果は、文部科学省新学術領域研究「ネオウイルス学」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金事業、武田科学振興財団、小児科学振興財団、第一三共生命科学振興財団、Medical Research Council、National Institute on Aging、National Institute of Neurological Disorders and Strokeの研究支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

A spliced latency-associated VZV transcript maps antisense to the viral transactivator gene 61

DOI

10.1038/s41467-018-03569-2

著者

Daniel P. Depledge1†, Werner J.D. Ouwendijk2†, Tomohiko Sadaoka3†, Shirley E. Braspenning2, Yasuko Mori3, Randall J. Cohrs4, Georges M. G. M. Verjans2,5‡ and Judith Breuer1‡

(; 共同筆頭著者, ; 共同最終著者)
1Division of Infection and Immunity, University College London
2Department of Viroscience, Erasmus Medical Centre
3Division of Clinical Virology, Center for Infectious Diseases, Kobe University Graduate School of Medicine
4Department of Neurology; Department of Immunology & Microbiology, University of Colorado School of Medicine
5Research Centre for Emerging Infections and Zoonoses, University of Veterinary Medicine Hannover

掲載誌

Nature Communications

研究者

SDGs

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