神戸大学大学院医学研究科血液内科学の若橋香奈子医学研究員と片山義雄講師らの研究グループは、骨髄線維症においてビタミンDの過剰なシグナルとマクロファージが病態を進展させることを発見しました。骨髄線維症は、遺伝子異常により発症する骨髄増殖性腫瘍が進展した際の主要な骨髄の病変であり、病気のコントロールを難しくします。本研究成果は原因遺伝子に対する治療とは別の効果的な新しい治療戦略の創出につながることが期待できます。

 本研究成果は、米国科学雑誌「Blood」に掲載されるに先立ち、2月5日(日本時間)オンライン版に掲載されました。

ポイント

  • 骨髄増殖性腫瘍に伴う骨髄線維症は骨髄移植以外によい治療法が存在しない。
  • ビタミンD刺激およびマクロファージが骨髄線維症を進展させることを発見した。
  • これらが腫瘍原因遺伝子に代わる新しい画期的な治療ターゲットになることが期待される。

研究の背景

 血液の細胞は白血球、赤血球、血小板という3種類の細胞から成り立ちます。これらの血液細胞の源となるのが造血幹細胞です。造血幹細胞は、骨の中にある骨髄と呼ばれるゼリー状の組織の中に存在し、通常は数が一定となるように血液細胞を日々造り出しています。骨髄線維症とは、この骨髄で線維芽細胞というコラーゲン線維を作る細胞が異常に増加し、骨髄が線維で占拠されてしまうことで、骨髄が正常に血液細胞を造り出せなくなる病気です。またそれに加え、骨が増える骨硬化という変化もみられます。骨髄線維症は、造血幹細胞の遺伝子異常(JAK2V617F変異など)により血液細胞が10年以上の長い期間をかけて異常に増えてしまう骨髄増殖性腫瘍という病気の経過に伴って徐々に進展することが知られています。骨髄増殖性腫瘍は高齢化に伴い近年新規に診断される患者数が非常に多くなってきており、世界中で研究が盛んに行われてはいますが、線維化の主要因については過去40年来血液学の教科書に書かれてきた「血小板を産生する巨核球という細胞が骨髄で増えて線維芽細胞を刺激する」という説明から殆ど進展がなく、またなぜ骨髄増殖性腫瘍において線維だけでなく骨も異常に多くつくられてしまうのか不明でした。そこで本研究グループは骨髄増殖性腫瘍で線維化や骨硬化が起こる原因を新たな視点で解明し、治療に繋げることを目標としました。

研究の内容

 本研究グループではこれまで血液と骨の関係についての研究をおこなってきました。ビタミンDはカルシウムの代謝を調節するホルモンであり、本研究グループのこれまでの成果によって、ビタミンD受容体が骨髄造血微小環境と呼ばれる骨髄での造血幹細胞の居場所を制御していることが明らかになっていました。そして今回、このビタミンD受容体を欠損させたマウス(ビタミンD受容体欠損マウス:体の中のビタミンD濃度が高い)に骨髄移植をすることで骨髄線維症に進展するモデルを構築することに成功しました。この骨髄線維症モデルの解析により、造血幹細胞が強いビタミンD刺激を受けることでマクロファージという免疫細胞に成長し、この病的マクロファージが若い骨芽細胞(骨を作る細胞)を刺激することで骨髄線維症および骨硬化が誘発されることを発見しました(図1)。血液学の教科書で長く線維芽細胞と呼ばれて来たのはこの若い骨芽細胞のことであったと考えられます。そして、このマウスをビタミンDの入っていない餌で飼育したり、マクロファージを抑制することにより、骨髄線維症の発症をほぼ完全に予防できることが分かりました。

 また、実際の骨髄線維症患者が持つ遺伝子異常であるJAK2V617F変異を持つマウス(JAK2V617Fトランスジェニックマウス)においても検討をおこないました。このマウスは骨髄増殖性腫瘍患者とほぼ同様の病態を呈するマウスであり、骨髄線維症および骨硬化を生じます。このJAK2V617FトランスジェニックマウスにおいてもビタミンDの供給遮断(ビタミンDの入っていない餌での飼育)やビタミンD受容体シグナルの遮断(血液細胞でのビタミンD受容体の遺伝子欠損)、またマクロファージを抑制することによって、骨髄の線維化を非常に効果的に予防できることが分かりました(図2)。

図1. 骨髄移植をおこなった野生型およびビタミンD受容体欠損マウスの骨髄
(左列)野生型マウスの骨髄は丸い血液細胞で構成されている。
(右列)ビタミンD受容体欠損マウスの骨髄は紡錘形の線維芽細胞とコラーゲン線維で占拠されており、骨髄線維症を発症していることが分かる。




図2. JAK2V617Fトランスジェニックマウスの骨髄
(デジタル化した写真では青い部分が線維化を示す)
(左列)マクロファージ除去なしでは線維が渡銀染色で黒く染まっている。
(右列)マクロファージを除去すると線維化の部分がほとんど見られない。

図3.

 以上の結果から、骨髄線維症の進展にはこれまで報告されている巨核球による刺激とは別に、ビタミンD刺激により成長する病的マクロファージが重要な働きを担っていることがわかりました(図3)。

今後の展開

 本研究ではビタミンDシグナルとマクロファージが骨髄線維症を進展させる重要な役割を果たしていることを新たに発見しました。骨髄増殖性腫瘍の原因遺伝子を標的としたJAK阻害剤が臨床で使われていますが、骨髄線維症に対しては必ずしも十分な効果が得られているとは言えないのが現状です。骨髄線維症は難治性で唯一の根治療法は造血幹細胞移植ですが、高齢者に多い疾患であり適応になる例は限られています。本研究により、ビタミンD経路やマクロファージをターゲットとした、高齢者にも対応可能な新たな治療法の開発が期待されます。

論文情報

・タイトル
Vitamin D receptor-mediated skewed differentiation of macrophages initiates myelofibrosis and subsequent osteosclerosis
DOI: 10.1182/blood-2018-09-876615

・著者
Kanako Wakahashi, Kentaro Minagawa, Yuko Kawano, Hiroki Kawano, Tomohide Suzuki, Shinichi Ishii, Akiko Sada, Noboru Asada, Mari Sato, Shigeaki Kato, Kotaro Shide, Kazuya Shimoda, Toshimitsu Matsui, Yoshio Katayama

・掲載誌
Blood(米国血液学会オフィシャルジャーナル)

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